❖コラムNo. 1
column
【 内視鏡 × 鎮静剤 】
みなさま、こんにちは!
『 小松おなかとおしりのクリニック広崎医院 』 副院長の 広崎 です。
とつぜんですが、みなさまは胃カメラや大腸カメラを受けたことはありますか?
「胃カメラや大腸カメラは受けたことはあるけど、とても苦しかったから二度と受けたくない」
「検査は受けたことはないんだけど、想像しただけで怖い。絶対に受けたくない」
といった声がきこえてきそうです。
そんな方には、是非とも今回のコラムをご覧いただきたいと思います。
眠っている間に検査が終わってしまう『 鎮静剤 』についておはなしします。
内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)は痛くない?苦しくない?
「 痛みや苦しさは無いです… 」と言えばうそになります。
個人差はありますが、大なり小なり一定の痛みや苦しさは感じると思います。
しかし、それはコントロールできるものなんですね。
例えば『 経鼻内視鏡検査 』
口から太いカメラを入れるのではなく、細めのカメラを鼻から入れることにより苦痛はかなり軽減できます。こちらもおすすめですよ!
それから『 鎮静剤 』を使った内視鏡検査。
今回のコラムでは、
『 鎮静剤 』を使った内視鏡検査にフォーカス!
して話をしていきますね。
『 鎮静剤 』ってなに?
「そもそも鎮静剤って何なの?」というように思われる方も多いのでは無いでしょうか。
鎮静剤とは、
わかりやすく言えば「眠り薬」です。
内視鏡検査はカメラを体に入れて胃や大腸を観察するわけですから、
患者さんにある程度の負担がかかるのは想像しやすいと思います。
例えば、
胃カメラであれば 「オエっ」となって喉が苦しくなったり、
大腸カメラであれば グイグイ と押される痛みを感じたり、
想像しただけでも吐き気がでそうですよね。
私自身も当然胃カメラ大腸カメラを患者として受けたことがありますから、
みなさまのお気持ちは痛いほどわかります。
だからこそみなさんには苦痛を感じて欲しくないんです。
そんな思いで当院では色々な工夫をしているのですが、
そのひとつが『鎮静剤』の使用です。
点滴をして、そこから鎮静剤を体の中に入れていくのですが、
『鎮静剤』を使用すれば、ほぼ眠った状態で検査を受けていただけるので、
このような苦痛が軽減できます。
「目が覚めたら検査が終わっていました」
「気がついたら部屋が変わっていた。いつ終わったのか覚えていない」
といったお声をよくいただきます。
これが『鎮静剤』の効果なんですね。
鎮静剤は具体的になんという薬を使うのですか?
一般的な内視鏡クリニックで使用する鎮静剤としては、
「ミタゾラム(ドルミカム)」、「ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)」「プロポフォール」、「デクスメデトミジン(プレセデックス)」 など
があります。
当院では「ドルミカム」と「プロポフォール」を併用してます。
なぜドルミカムとプロポフォールを使用し、それを併用するのですか?
まず、「ドルミカム」と「プロポフォール」以外を使わない理由から説明します。
ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)はミタゾラム(ドルミカム)と同系統のお薬ですが、血管刺激が強く作用時間が長めであり、鎮静作用が遷延しがちであり使用はしておりません。
一方、プレセデックスなんかはとてもよい薬です。しかしローディングという作業が必要であり検査ではあまり使用されません。入院下での内視鏡治療時などには最近よくつかわれるようになったものです。
プレセデックスは検査での使用は現実的ではなく、ジアゼパムは鎮静作用が長引いてしまうために安全性の面からは推奨されず、そのため「ドルミカム」と「プロポフォール」を使用するわけです。
「ドルミカム」と「プロポフォール」の特徴に関しては後に説明しますが、「ドルミカム」と「プロポフォール」を併用する理由は、それぞれの長所を生かし、短所を補うためです。
実は2021年までは当院では基本はドルミカムのみ使用しておりました。
しかし、2022年より以前から気になっていたプロポフォールをメインに使用し、ドルミカムを少量併用する形に切り替えたのです。
それは何故でしょうか。まずはそれぞれの特徴についてみていきましょう。
ドルミカムの特徴を教えてください
ドルミカムは
・鎮静作用 ・睡眠作用 ・抗不安作用 を併せもち、
安全性が高いお薬です。
そして最も特筆すべき特徴として、『 前向性健忘 』というものがあります。
『 前向性健忘 』とは、
『 薬を入れてから先の記憶が一部なくなること』を意味します。
ちょっとよくわかりませんよね。
どういうことか解説します。
鎮静剤を使用した場合には眠った状態になるのですが、その状態でも一定の苦痛というものはあるものです。
苦痛のために半分眠りから覚めるような半覚醒状態になることもあり、検査中かなりの苦痛を感じてしまうケースもあります。
しかし、『前向性健忘』というものがあれば、半覚醒状態で感じてしまった苦しく嫌な記憶も忘れてしまえるのです。(個人差がありますので薄れる程度のことも)
プロポフォールとプレセデックスは健忘がありません。
健忘は検査中の記憶の健忘がメインであり、検査後の記憶はほとんど残っています。当日のうちに検査結果説明を受けていただくことが可能です。(2022年よりドルミカム使用量減量による)
一方でドルミカムのデメリットはなんでしょうか。
それは鎮静剤の効果が長続きしてしまうことでしょう。
前述した様にジアゼパムよりは効果は短いですが、それでも効果は検査後も続いていまし、検査後のふらつきや頭のぼーっとした感じが強い方が多くみられます。
また、「脱抑制」という情動や感情コントロール不能状態に陥るリスクがあります。
(検査中に体を起こそうとしたりカメラを自己抜去しようとしたり)
しかし、
これらのデメリットは、2022年よりプロポフォールをメインで使用し、ドルミカムを少量併用することによりほとんどなくすことができました。
プロポフォールの特徴を教えてください
簡単に言えば、プロポフォールは効きがよく、覚めが早いお薬です。
キレが良いとも表現されることが多いですね。
また鎮静剤が効きにくい方にもムラなく効きやすい。
デメリットと言えば、
ドルミカムにはない血管痛(薬を入れる瞬間のみ)、循環抑制(心臓・血管系への影響)作用があることでしょうか。
当院ではこの2点が気になり導入をしておりませんでしたが、過去の集中治療室での経験(一年間武者修行として、救急診療科に所属し集中治療に従事しておりました。)、既にプロポフォールを導入しているクリニックの医師から助言、スーパーアドバイザーである麻酔科医である妻からの指導を受け、2022年に導入しました。
血管痛の問題は、検査直前まで冷蔵庫で冷やしておくことでクリア。循環抑制も少量のドルミカムを併用することでプロポフォールの使用量を減らすことができるためにクリアしました。循環器系のリスクが高い方は使用量を減らすなどの工夫もしています。
当院におけるハイブリット鎮静法(少量ドルミカム+プロポフォール)
上記の理由にて、当院では2022年よりドルミカムを少量にしてプロポフォールをメインで使用するハイブリットの鎮静法に変更しまいた。それぞれの長所を生かし、短所を補うことが可能となりました。
2022年より導入した少量ドルミカム+プロポフォールのハイブリットの鎮静方法は
とても手応えがあります。
- ◆鎮静剤の効きすぎがなくなった(帰り際までふらふら、ぼーっとする)
- ◆当日検査結果説明が可能となった(キレが良く覚めやすい)
- ◆脱抑制がなくなった(検査中)
- ◆個人差なく鎮静効果が得られる。(過去に鎮静剤効かなかった人にも効く)
- ◆患者様の満足度が高い
※2021年時と患者様にかかるコストはかわりませんのでご安心下さい。
鎮静剤って安全なんですか?
ドルミカムは鎮静作用・睡眠作用・抗不安作用を併せ持つ鎮静剤で、安全性が高いお薬です。循環抑制といった心臓・血管系への影響もそれほど強くはありません。
プロポフォールは効きが良く、鎮静の効果がなくなるが早いため、鎮静剤による呼吸や循環抑制からの回復も速やかである特徴があります。
とはいっても、呼吸や循環系に与える影響は大きく、危険性が無いわけではありません。
当院では酸素投与や点滴などを行い、安全に検査が行えるような体制を整えています。血圧や心電図波形、呼吸状態を適宜確認し、細心の注意を払い検査を行っております。
検査後もゆっくりリカバリールームで休んでいただけますので
どうぞご安心ください。
鎮静剤が効きすぎるとどうなるんですか?
前述した様に、当院のハイブリット鎮静法であれば、あまり効きすぎることはありません。
あと残りはあまりしないので、終わった後もいつの日常には戻りやすいです。
しかし、そうはいっても薬の効果はいくらか残りますし、個人差があるので効き過ぎれば、おかえりの際にふらつくことはあります。
転倒などには十分注意をしましょう。
当然、運転は禁止です。飲酒運転と同じ扱いとなります。
鎮静剤が効きにくいことはないですか?
そうですね。どうしても個人差があるので効きにくい方はいらっしゃいます。
とくに心療内科領域のお薬を使われている方には効きにくい傾向があり、
鎮静剤使用量が多くなりがちです。
検査後はふらつきや眠気が強くなりやすいので十分な注意が必要ですね。
しかし当院ではプロポフォールを主に使用するハイブリット鎮静法なので、そういった方にも鎮静効果は得られやすいと思います。
<ブレイクタイム☕️ >
ここまでお読みいただきありがとうございました。
実はもう少しだけ続きがありますが、
ぜひ一度、休憩をしてください。
僕もコラムを書いていて疲れました(笑)
ゆっくりされましたか?
それでは続きです!
鎮静剤を使用するメリットとデメリットって何?
メリットとデメリットをそれぞれ解説していきましょう。
メリット① <患者さんの身体的・精神的苦痛を軽減できる>
眠っている間に検査が終わるため、圧倒的に楽に検査を受けることができます。
これが鎮静剤を使用する最大のメリットと言えるでしょう。
絶対に苦しい思いをしたくないという方は、鎮静剤を使用して内視鏡検査を受けることを強くお勧めします。
(*効きにくい方はいらっしゃいます)
メリット② <病変の見落としを防げる>
鎮静剤を使用することで、患者さんはほぼ眠っている状態になります。
そのため、スムーズに検査を行うことができ、内視鏡医は観察に集中することができます。
例えばですが、
胃カメラ検査で患者さんが咽頭反射(オエっとする)を起こして、とても苦しそうにしていたとします。そうなれば時間的な制限が発生したり、患者さんが動いてしまえば検査をスムーズに行うことが難しくなってしまいます。
鎮静剤を使うなどして苦痛を軽減できればこのようなことは気にする必要がありません。
より正確に検査を行い病変の見落としを防ぐためにも、鎮静剤は有効であると言えるでしょう。
デメリット① <交通手段で車を使用することができない>
鎮静剤を使用したあとの車の運転は非常に危険です。そのため、鎮静剤を使用して内視鏡検査を受けた後は、車で帰宅することは禁止させていただいております。
どなたかにお迎えにきていただくか、それが難しい場合は電車やタクシーなど、他の交通手段を用意する必要があります。
デメリット② <副作用が発生する恐れがある>
どのようなお薬であっても、勿論副作用が発生する可能性はあります。これは、鎮静剤も同様です。
鎮痛剤を併用するケースは少数ながらありますが、その際は頭痛や吐き気がでるケースがあります。
ふらつきはでやすいので、転倒のリスクがあります。
注意力が散漫となり、集中力も低下しますので仕事などの作業効率の低下などもあります。
しかし、当院ではプロポフォールをメインにしたハイブリット鎮静法なので、そこまで問題とならないことが多いと思われます。個人差はあります。
『メッセージ』 message
「カメラはこわい」
「昔受けてトラウマになった」
「二度と受けたくない」
そんなお声をたくさん耳にします。
そんな方々に、
『 鎮静剤』いう選択肢がある ということを
お伝えしたいのです。
より 苦痛の少ない
より 精度の高い
より 安全で確実な
内視鏡検査を実現するために、
最後に
皆さん、今回のコラムはいかがだったでしょうか。
本コラムを読んで頂いた結果、
「鎮静剤を使って検査を受けよう!」、
「鎮静剤を使えば比較的楽に検査が受けられるかも!」
と、内視鏡検査を受けることに少しでも前向きになって頂ければ幸いです。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
それではまた、次回のコラムでお会いしましょう!!
special advisor SAEKO HIROSAKI
麻酔科専門医 浅ノ川総合病院 麻酔科常勤医
✔この記事を書いたひと
✔広崎拓也 小松おなかとおしりのクリニック広崎医院 副院長
日本内科学会 認定内科医
日本肝臓学会 肝臓専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医